留学レベル: Pre-degree(ファウンデーションコース) |
カレッジ: Camberwell College of Arts |
コース名: Foundation Diploma in Art and Design (Diagnostic Mode) |
留学期間: 2018年9月~2019年5月 |
2019年に私、ロンドン芸術大学日本担当官の高橋がCamberwellのファウンデーションコースを訪問した際、そこで出会った講師やテクニシャン(作品制作における技術面をサポートする専門家)の全員が「日本人の素晴らしい学生がいた!」と、口を揃えて教えてくださりました。今回はそのUALの講師陣からも絶賛されたEndaさんよりファウンデーションコースの体験談をお寄せいただきました。
留学準備について
Q.英国留学を決心した理由やきっかけを教えてください。
今回の留学以前に英国に2年ワーキングホリデーで滞在しており、その際ミュージシャンとして活動をしていました。帰国の際、バンドを英国に残しており、どうしても戻って続けたかったため、留学という形で戻ろうと決意したのが大きなきっかけです。また、専攻の決定については、どうせなら今まで勉強したことのないものを、そして自分を追い込めるものを、という安易な理由であったかと思います。
Q.留学準備で大変だったことはありましたか?
ビザの取得や、資金繰りが本当に大変でした。年齢等の問題で応募できない奨学金が多く、様々な方法を探しました。
ファウンデーションコースについて
Q.授業について教えていただけますか?
私のコースの場合、月、火、金の10:30~12:30、14:30~16:30に授業が行われていました。各専攻コースによって曜日は異なりますが、全コース週3回、午前午後各2時間の授業があったようです。他の曜日も校舎に入って作業を進めることができますが、安全上の理由で3人以上が1つの教室にいないと使用してはいけない等の規則がありました。
また、毎週月曜の5時からヌードモデルが来るドローイングの場が設けられていたり、レゴを使ったクリエイティブワークショップが開催されたりなど、制作に関する様々な機会が設けられています。
*コースや年度によって授業形態が異なりますので、上記と異なる可能性がございます。
Q.課題で特徴的だなと思った点があれば教えていただけますか?
アートの歴史を学んだり、デッサンの方法を学んだりといった、知識や技術に関する授業はほぼありません。全て能動的に、自分から知識も技術も手に入れなければいけないのが最大の特徴だと思います。私が選んだドローイング/コンセプチュアルプラクティスコースでは週に1時間程、事前に配布されたテキストについてのディスカッションの時間がありましたが、それ以外は基本的に全ての時間が自由時間でした。
授業の基本的な流れですが、最初に課題と締め切りが伝えられ、それについて自分なりにリサーチを行い、考え方を整理し、作品を作り、最終日に自分で作品の解説を行い、お互いに批評し合うというものでした。そのプロセスを何度も繰り返す中で、自分なりのアート論やアプローチを確立させて行くというのがこのコースの狙いなのだと感じました。
私のコースの課題は抽象的なものが多く、例えば「ボール」、「アートと科学」、「場所」といった漠然とした課題が与えられます。最初にチューターが課題を説明する際に、そのテーマを既存のアーティストがどのように解釈し、表現をしてきたかという例を色々紹介してくれます。その後、学生はテーマに沿って、既存のアーティストが他にどういう形でそのテーマを表現してきたか、どのような技法を使ってきたか、なぜその技法がそのテーマを表現するのに最もふさわしかったのか等、作品や文献などを個人で自由にリサーチを進めていきます。そのリサーチの中で、どのようにテーマを発展させて行くのかを自分自身で決めて作品を制作していき、最終日にテーマについての自分の解釈や作品で表現したかったものなどを発表し、お互いに批評を行っていきます。
このように、実際にアーティストとして自分が作品を作って行くというプロセスを何度も繰り返し行いながら、自分の制作方法や興味のある分野を深掘りしていきます。自ずと、スケジュール管理も徹底しなければいけません。
これに関連して、コース内で何度もチューターに言われるのが、既に自分がアーティストであるという自覚を持って作品を制作しなさい、ということでした。なぜその素材でなければならないのか、なぜその表現方法なのか、なぜその展示方法なのか、なぜその展示場所なのか。こういった様々な「なぜ」に全て答えられるくらいに、その作品について自分自身で真摯に考え、自分なりの答えを出して行くことを求められます。
Q.クラスメイトはどんな方たちでしたか?
コースによってクラスの人数が違いますが、私のいたドローイングコースは約40名を2クラスに分けていました。各自1m×50cm程度のテーブルが与えられ、そこで自分の作品を制作していました。ペインティングコースなどは人気があり、80名ほどで大きな教室をシェアしていたので、各自の作業スペースはもう少し小さかったかと思います。
国籍は非常に多様で、イギリスの学生が半分、ヨーロッパからの学生が4分の1、残りがアジアからの学生といった構成でした。アジア人の中では中国の学生の割合が非常に高かったです。日本人はほとんどおらず、コース全体でも10名以下だったと思います。
Q.チューターはどんな方たちでしたか?
チューターは現役のアーティストとして活動している人たちによって構成されており、より現実に即したアドバイスをもらうことができます。どのチューターも非常に親身になって考えてくれる方々で、講師陣には非常に恵まれたと思っています。
チューターとのチュートリアルは基本的に1対1で行われ、私のクラスでは2週間に1度程度の頻度で、1人あたり30分程度の時間が設けられていました。内容は主に自身の興味や進路などでした。
そのチュートリアルの時間以外でも、基本的に毎日のようにチューターが課題の進捗具合を確認しに回ってきてくれるので、アイデアの発展などで躓いている時なども先に進むヒントをもらうことができます。ただし、基本的にチューターからはアドバイスは期待できても、答えはもらえません。学生をサポートし、アイデアを発展させる手助けをしてくれる存在なのです。
Q.学校の施設や設備について教えてください。
コンピュータールーム(Macの部屋、Windowsの部屋に分かれている)、プリントスタジオ、3Dワークショップ、撮影スタジオがあり、それぞれ専門のテクニシャンが常駐しています。
スクリーンプリントや熱転写等、様々なテクニックを教えてくれるワークショップも連日開催されており、そこから作品の着想を得ることも珍しくありませんでした。
また、UALの図書館は使い放題で、他の校舎の本が必要な時はIDさえあればどの校舎の図書館にも入れましたし、本の取り寄せも可能でした。Camberwellの本校舎横には24時間使用できるスタディルームが併設されており、絵を描いたり写真を撮影できたりするスペースがあります。
*UALの各カレッジには、テクニシャン(技術面をサポートする専門家)が常駐しており、学生が実現したいプロジェクトに対して技術的なアドバイスやサポートを行っています。
ロンドン芸術大学に留学をしてみて…
Q.そのほか1年間を通して大学生活の感想があれば教えていただけますか?
学生のことを本当の意味でアーティストに育てようとしてくれるカリキュラムや講師陣、設備が充実していると思います。基本的には全て自由であり、本当に好きなことを好きなだけ打ち込める機会があるので、能動的に学ぶ場としては最適ではないかと思います。 講師陣も権威主義だったり偉ぶったりせず、同じアーティストの先輩という立場で、本気で学生を成長させようとしてくれる方々ばかりだったのには驚きました。
Q.ファウンデーションコースをお勧めしますか?
確実にお勧めします。数年後、アーティストとしてのキャリアを積んでからもう一度入りたいと思うほどです。
お勧めする理由としては、「圧倒的に自由」これに尽きると思います。教えられないと自己成長できない人にはお勧めできません。自分で情報を掴みに行き、自分に必要な技術や知識を自分で学び、自分で深めるという、自己への問いかけができる人に強くお勧めします。
また、競争して誰よりも上に行って認められたい、というマインドの人にはあまり向いていない校風だと思います。もっと内観的で、自分のアートとは何かというものを追い求めたい人に強くお勧めできます。
Q.実際に留学をしてみて、もっと準備しておけばよかったと思うことがあれば教えてください。
留学以前に住んでいたこともあり、基本的には問題はありませんでした。強いていうならばロンドン限定ですが、公共交通機関用の学割手続きを早めにしておけばよかったなと思いました。
Q.日本出願事務局(beo)のサポートを受けて良かったことはありますか?
特にビザの取得の際は本当に助かりました。有料ですが、ビザ申請取得のサポートのおかげでギリギリの申請になってしまった私でも大変スムーズに取得することができました。
また、サポートスタッフの方の対応が本当に素晴らしく、小さな疑問や不安要素などにも丁寧に逐一答えていただきました。本当に感謝してもしきれないほどです。
Q.これからロンドン芸術大学に留学を考えている方へのアドバイスやメッセージをお願いします!
日本の美大や芸大に行ったことがないので比較はできません。もしかしたら、美大や芸大というのはこういう校風なのが当たり前なのかもしれません。
しかしながら、アートを含めた現代のカルチャーを語るにあたり、ロンドンは外せない都市であることは間違い無いと思います。その都市の真只中でアートを学び、大学生活を送るというだけでもロンドン芸術大学に入学する価値があると思います。
1点、現実的な話ですが、英語力は無いよりあった方が確実に良いです。喋れなくても生活にはほとんど困りませんが、受け取れる情報量に大きく差が出ます。そして楽しさも大きく変わり、交友関係も大きく変わります。少なくとも、拙くても自分の考えを伝えられるようなスピーキング力があった方が確実に充実した留学生活になると思います。
ファウンデーションコースで制作された作品を送付いただきましたので、いくつかご紹介します。
卒業制作 タイトル:Chromanote
自身のミュージシャンとしてのバックグラウンドを基に、「音を視覚化する」というコンセプトから制作した楽器、パフォーマンス及び抽象画までを1つの作品としたものです。
パッと見た際の楽器自体のスカルプチャ的な美しさや面白さ、演奏をするというパフォーマンス、そしてそのパフォーマンスが抽象絵画になるという最終アウトプットの3本の軸からリサーチおよび制作を進めて行きました。
楽器の構造については、ピアノのような鍵盤を押すとテコの原理でハンマーが銅製のパイプを叩き発音し、同時にその先にある筆がインクを紙面上に飛ばす、といった仕組みを一から設計しました。また、各音はパイプの長さを変えることによってチューニングされており、楽器として演奏ができるクオリティに仕上げました。
音階と色の関係性については、まず音楽理論と色彩理論についてリサーチし、それぞれの音が音階の中で持つ役割と色の色相環の中での役割を対応させ、自分の中で秩序だった形で整理しました。その後各音に対応する形で色を選択して行きました。
全体を通してのコンセプトが「音を視覚化する」というものでしたので、楽器それ自体のデザインも全てそのコンセプトに準じたものとなっています。例えば楽器の底部分の立体的な波上のものは音が持つ波形からヒントを得て制作し、またフレーム部分のパイプの形も楽譜ですとか音楽制作ソフトの制作画面といった部分から着想を得ています。
パフォーマンスに関しては、演奏時のコスチュームの製作を友人のファッションデザイナーの方々に依頼し、全て生成り生地で製作していただきました。それにより、自分自身もキャンバスの一部として演奏を記録できるようにしました。演奏面に関しては毎回即興で行うため、その都度アウトプットの絵が変化します。
また、最終アウトプットである抽象画は演奏を記録したものですので、色とその位置をたどっていくと楽譜になるという、広義でのドローイング作品と考えています。
ロンドン芸術大学日本担当官よりメッセージ:
冒頭でも触れましたが、大学訪問の際、ファウンデーションコースの講師、テクニシャンの全員がEndaさんのことを知っていて、口を揃えてどんなに素晴らしい学生だったかということを教えてくださりました。
Endaさんは、会社員経験やミュージシャンの活動経験もあり、他の学生さんよりも少し年上ではありましたが、常に様々なことに好奇心を持って取り組まれる姿勢が留学前からとても印象的でした。コースでもコース全体を引っ張っていくようなムードメーカーだったとのこと、納得です。
UALでは「Self-led(自発的)」に学ぶ姿勢が求められますが、この体験談からは、まさにEndaさんが自主性を持って留学生活を送られたことがよく分かり、私も何度も大きくうなずきながら拝読させていただきました。Endaさんは、ファウンデーションコース修了後なんと大学院へのオファー(しかもUALからの奨学金も!)を取得されています。学部を飛び越えて大学院のオファーとは、本当に素晴らしいですね。今後のご活躍も楽しみにしています。
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